芸術と芸術家の影響力と権威について

今生きているどんな芸術家よりも、あるいはかつて生きていた芸術家よりも、アメリカの大統領の方が影響力は大きそうだなと思っている。
キリストや仏陀ならトランプ大統領の影響力を大いに凌駕するだろうが、残念ながら音楽家や画家、文筆家ではそのくらいの人を思いつけない。
しかし、政治家の影響力と芸術家の影響力は区分すべきである。
資本家の目的に反する芸術
試験勉強ならば、勉強する主体の勉強の目的は試験に合格することだ。
これは同語反復的な循環定義だが、資本家の事業拡大や経済活動に至っては、試験勉強における”合格”のようなものが曖昧になっている。
30代半ばでアーリーリタイヤを目論む小金持ちではなく、ビルゲイツだとかホリエモンの動機は、金を稼いでどうこうするわけではない。事業の成功そのものが目的化している。
「資本主義は宗教である」というとき、このようなニュアンスが込められている。
芸術家は、ただひたすらに金儲けのために活動をすることはできるが、売上の多寡で芸術作品の良し悪しは決まらない。
資本主義・資本制度とは独立して、芸術の価値は決まっている。
もちろん、無視はできない。オークションの落札価格は、見るものに心理的抑圧を与えるだろう。
現代アートの作品群に対して、やたらと資金洗浄だとか金持ちの悪趣味な道楽だと言いたがるのは、市場規模が大きくなければ発生しない言説である。
多数決・民主主義に反する芸術
トランプの影響力は、多数決(民主主義)の上で成り立っている。
格闘技の判定で、人気の選手にも関わらず、微妙な判定でその人気選手が負かせられたりするが、ここに民主的な判定結果を持ち込んでしまえば、KOされるかよほどボコボコにされない限り、人気選手が勝ち続ける不健全な体制が生まれてしまう。
直接民主制が陥る陥穽である。代理民主制にも癒着・賄賂の問題があるが、全て国民がいちいち決めてしまっては、政治が本当の意味で人気投票になる。
(第一、めんどくさい)
有名なローリングストーンズ誌が選出するランキングにしろ、売上や人気投票ではなく、編集部が勝手に選んでいるだけだ。
一つの機関・組織・権威の箔を真に受ける必要はないが、非人気投票的・非資本主義的価値基準は必要である。
秋元康だとか、アムウェイが踏ん反り返ってる世界を想像すれば良い。そんな世界に住みたくはない。
芸術の影響力とは
芸術が影響する位相は、多数決や資本主義が発動する前段階である。
「この人が美しい」と美人投票が始まるとき、始まる前に芸術は人の美意識に影響する。
ピアノは平均律で作られた、かなり歪な楽器だが、我々はそれに慣れてしまっている。
ときどき、ロックやメタルの不協和音まみれの音楽がすんなり民衆に受け入れられたのは、ピアノによる下地があったからではないかとも思う。
多数決と資本主義のジレンマ
集団Aなる人間あるいは意思があるわけではない。個人A、個人Bの意思を一緒くたにしているだけである。
多数決(政治)と資本主義(貨幣)は、固有のもの、実存的なもの、代替不可能なものを同じ記号で表してしまう。
芸術家のが揃いも揃って開き直り金儲けに走ってしまったら、世界からドロップアウトした人間の受け皿がなくなってしまう。
芸術家の皆が金儲けがうまいわけではないので、商業的成功を狙って、結果的に細々とした経済的成功を収められないシチュエーションはいくらでもある。
私が無責任に要求しているのは、経済的成功に背を向ける価値観・イデオロギー である。
理想的なのは、“芸術的価値”をひたすらに追求していったら、いつのまにかお金がついてきていること。だが、そんな幸せな人は少ない。意識的にしろ無意識的にしろ、お金と芸術はついて回る。
批評の権威と芸術
ローリングストーンズ誌のランキングも批判は多いが、それなりに影響力はある。権威もある。
権威なき美的価値基準は、野球場のオヤジの野次と同じで、誰も聞かない。笑われるのが運命だ。
オーストラリアの才能発掘番組で、イマジンを歌った変わり者の青年を思い出す。
彼の美学には権威がない。効力と影響力、強制力がない。それに、彼を至上の芸術家としえフォローする後進も、(おそらく)現れないだろう。
現代アートをクソの山だと認識して、価値を一顧だにしない人たちがいるが、彼らの勢力はむしろ多数派である。
しかし、相変わらず絵をシュレッダーにかけた作品が何十億とする世界は存在する。美的価値基準が直接民主制による多数決で決まってしまうのなら、そんなことは起こらない。
ときどき、個々の作品はイデオロギー ・美的基準の容れ物に過ぎないのかもしれないと思うことがある。
ルールの異なる競技を比べることはできないが、ジャンルファンのディスり合いはいつだって起こってる。
あの現象は、ジャンルファンのケンカよりも上の位相で発生しているのだろうか? だとすると、異なるジャンルを比べる物差しが必要だ。
それが仮初であっても。

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