“神秘体験”を擁護する

「根拠のない自信を持て」と、先達は若者にアドバイスするが、これは「傲慢に振る舞え」と言いたいのではない。

「できるかどうか、才能があるかどうか根拠を求めても仕方ないから、とりあえず挑戦しなさい」言いたいのはこれだ。自分はしなかったくせに、次世代に挑戦を求めることを、矛盾した態度だと糾弾することはできようが、彼らもそれなりに後悔してるのだ。

イケイケの若手起業家達は、責任もとれないのに「起業しろ」「レールから外れることを恐れるな」「挑戦しろ」とのたまう。その言葉を真に受けて会社を立ち上げ、失敗し、「お前、どうしてくれるんだ。責任をとってくれ」と、言ってはならない。言っても仕方ない。確実に成功する方法はないし、”絶対に幸せになるルート”もない。

それに、ある程度好き勝手なことを言える社会を、私は好む。

神秘体験を擁護する

神、あるいは神の叡智、あるいは叡智との「合一」を果たしたと主張する者たちを、私は苛烈に非難しない。少なくとも、彼らは「謙虚」だったからである。それと、神秘体験は超宗派的・超教義的で、異なる宗教間の衝突を緩和してくれそうな気がするからだ。

少なくとも、smugnorantではない。傲慢なバカほど、我慢ならないものはない。

「神秘体験」のコンセプトは、拡大しうる。「カンボジアで貧しい子ども達を見てから、人生の味方が変わった」だとか「海外旅行で、日本を感じた」「戦争の悲惨さを、現地で目にした」。

アメリカのラッパーのリル・ウェインが、「人種差別の証人になったことはない」「人種差別がなんなのか分からない」と、AP通信のインタビューで語っている

インタビューを要約すると、12歳のころ、家宅捜査に及んだ警察官に撃たれた。撃った警察官は黒人だった(そして彼よりも黒い)。黒人警察官は、撃たれた子ども(リル・ウェイン)に構わず、捜査に及ぼうとしたが、そこに同行していた白人の警察官であるボブは「ここに撃たれた子どもがいるのに、何をしてるんだ」と、リル・ウェインを病院に連れて行った。

これは「神秘体験」だろう。

彼に起こったことと、白人警官ボブの存在は「人種差別が存在しない証拠」にはならない。また、少し邪悪なことを言えば「黒人から黒人への人種差別」の”証拠”になりうる。しかし、社会の理不尽さを嘆いたり、社会の巨悪を打倒せんとする人生よりは、自信のキャリアと成功にフォーカスする生き方の方がより幸せだろう。なぜなら、社会の歪みはなくならないからだ。

世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない


宮沢賢治『農民芸術概論綱要

…のならば、個人の幸福は成しえないし、忌まわしきものとされてしまう。(宮沢賢治のことは世界のどの人物よりも尊敬しているが、彼が現代に生まれていたら、ちょっと嫌いになっていたかも知れないと思う)

神秘体験とは別個に語らねばいけないトピックかも知れないが、”臨死体験”と”臨死体験による転回”も、世によく出回るコンテンツである。かつて無神論者だったハワード・ストームは、臨死体験中にイエス・キリストを見た(らしい)。そこでかつて神を信じていたころの子供時代を思い出し、今まで「何もかも許されている」と考えていた自分の態度が、根本から変わった……こちらのアーティクルであったり、YouTubeでも彼のインタビューが見れるので、気になった人は確認してください。

蝶番命題を過去の投稿で話題にしたが、ハワード・ストームにとって「ここに手がある」のと同じ次元で「神は存在する」「私はイエスに出会った」のである。外部の人間がいくら否定しようが、それは当人にとって馬鹿げたことでしかない。

信じているもの・前提・出発点・蝶番を否定しても仕方ないのだ。仮に、彼らに対抗したいのならば、彼らの前提を受け入れてあげないといけない。判断は、聴衆に任せればいい。

逆に、神秘体験の逆があるとすれば

負の神秘体験とはなんなのか?虐待や大きな交通事故などのトラウマの原因となるもの、また”妄想的不安の原因となる出来事”、これらは対置はできない。

(私は精神科医ではないので、トラウマの治療法をここで書いたりはしないが、大学時代、「高校生の頃に屠殺現場を見てから、肉が食べられなくなった」人がいる)

神秘体験をエクスタシーの一種とするのなら、その逆を「負の神秘体験」と規定できる。根元から覚めていく感覚…。

例えば、雑踏の中で「自分が存在しない社会がある」「自分が今日死んでも、世界は続くこと」に気づく。あるいは、存在の気持ち悪さに嘔吐すること。夏の日差しに、死を見出すこと……

桜田真助
  • 桜田真助
  • 92年大阪生まれ。なにもかも分かったような気に最近なっていて、これはダメだなと焦って疑問を探している。プロフィール画像は友人(@leilamarinacb)から頂きました。

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