【第二回】民族概念のあやふやさ ethnolinguistic という概念

前回の話はこちら
ヒスパニック、アラブ、テュルク。これらは人種概念というよりは、Ethnolinguistic=言語(母語)による区分である。
唯一、ヒスパニックだけはスペイン語の母国であるスペインだけ外れてしまうが、エジプト人にしろアラブ人であるというアイデンティティは希薄である。これは、エジプト本国の繁栄や過去の偉大なる文明の継承者であるなる自意識が、「アラブ」アイデンティティと相容れないことと関連するだろう。
また、アフガニスタンで数世紀にわたる迫害と虐殺にされされているハザラ人に関しても、ペルシャ系=イラン系の意識は希薄かほとんどないだろう。同じペルシャ系であるはずのパシュトゥーン人に終わらないテロや暴力の脅威に晒されているのだ。そりゃそうだろう。
人種とphenotype
人種概念は、形質=見た目に大きく依存している。黒人の遺伝子系があるかどうかではなく、見た目が黒人ならば黒人である。そういった考え方。
だから、メラネシア人はもとより、ソマリ人やエチオピア人など いわゆるCushitic:クシ系の人たちは黒人、おそらくはバントゥー系あるいはナイロート系の方たちが抱いているアイデンティティは希薄だ。差別意識すらある。
ややこしいのは、特にアメリカにおける「黒人」の適応範囲が限りなく広いことだ。半分黒人でも、見た目があまり黒人でなくとも黒人カテゴリに入れられる。
黒人だとか白人だとかそういう前に、彼らは西洋人だと思うのだが(そもそも、いわゆるアフリカ系アメリカ人、ブラックアメリカンの方はアフリカの言語を喋らない)、アメリカは「人種」なる奇妙なコンセプトに縛られており、民族意識というのを解せないので、そういった認識には至ってない。
思えば、日本列島だって東北や北海道には蝦夷あるいはアイヌなどの非日本民族=日本語を話さない人たちが存在したのだが、数百年かけて同化されていった。
(沖縄・琉球は、別言語だとしても日本語族である)
朝鮮半島にも、特に北朝鮮はツングース系の人たちが住んでいた地域なのだが、いつのまにか韓族に同化吸収されていった。
テュルクという概念・ルースキー
アナトリアのトルコ人やアゼルバイジャンの”トルコ人”の人たちは、たまに「お前たちは偽トルコ人だ」「本当のテュルクはモンゴル人みたいな見た目をしている」などと言われる。
だが、テュルク化=Tukification というのは、何もテュルクに限ったことではない。それに、例えばアジア系のオーストラリア人がいたとして、白人がオーストラリアに入植していく歴史・過程は、確実にそのアジア系オーストラリア人の「歴史」である。
オーストラリアのカラードと呼ばれる人たちは、人種概念によって形成されていない。単に黒人と白人の混血をカラードというのではなく、コイサンと黒人の混血ではなく、アフリカーンス語を母語とする、元々奴隷だった人たちの子孫をカラードと言う。
言語・母語というのは、被支配層が支配層の言葉を使い出すケースと、支配層が被支配層の言葉を使い出すケースがある。フィリピンやインドネシアなどではスペイン語やオランダ語は定着しなかったが、アメリカ大陸ではスペイン語が原住民の共通言語となった。
オーストロネシア語はもともとリングアフランカとして機能しており、なおかつメキシコなどと比べてスペイン人の入植はフィリピンにおいて低調だったため、混血層であるメスティーソが増えなかったことが要因として考えられる。それにしても、ウズベキスタンやアナトリアの人間がトルコ語を話しているのは、数百年のプロセスがあるとはいえ感嘆に値する。彼らは、もともとギリシャ語やペルシャ語を話していた人たちである。ロシア人たちはあいも変わらずロシア語を話しているのに、中央アジアの人たちはトルコ語を話している。
ウイグル人だって、元々はインド・ヨーロッパ語族であったトカラ人の土地だったのが、いつのまにかテュルク化してしまった。満州族も漢族に同化吸収された。
民族概念・テュルク・そもそもの話
初期の突厥時代のテュルクは、今のモンゴル系・ツングース系の民族と変わらない見た目をしていただろうが、匈奴時代にはすでにペルシャ系=イラン系=中東系の人たちが混じっている。
そもそも、遠い先祖というのは明らかに今の人たちとは違うのだ。3000年前の”日本人”よりも、今のアメリカ人の方が今の日本人と共通点が多い。
どんぐりを食い、顔に刺青をして、猪を狩り、ときどき人身御供をする人たちと、今の日本人がどれほど通ずるものがあるのか。そもそも、現代日本語を話してもコミュニケーションできない。
また、古代ギリシャ人と現代ギリシャ人が民族・人種概念においてどれだけ共通しているかも疑問である。日本人の遺伝子構成は2000年前と大して変わってないだろうが、2000年前のギリシャ人は明らかに今のギリシャ人と遺伝子が異なっている。

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