そうではなく、ラディカルでないことが問題なのであり

私のフクヤマに対する批判は、彼がヘーゲル的でありすぎるということではなく、まだ十分にヘーゲル的ではないということです。

ー引用『浅田彰「歴史の終わりを超えて」』 ※発話者は浅田彰の対談相手であるスラヴォイ・ジジェク

私は、この言い回し「~的でありすぎるということではなく、~的でないこと」を気に入っている。なぜなら、都合よく「セオリー」を用いる不正直ものを、美しい刀で斬り伏せているからである。

陰謀論が問題なのではなく

“ラディカリスト”が、十分にラディカルでないこと、理論を自律化させて、あらゆる現象にセオリーを照応させないことが問題である。英語にはeats (owns) words というイディオムがあるが、”理論の下の平等”を、言説において実現しなければならない。実現が”難しい”のなら、言説内だけでも”実現”するべきだ。

「生まれ持った性的志向は変えられない。尊重されるべき」ならば、ネクロフィリアもペドフィリアも、尊重されるべきだ。

「人に迷惑をかけなければ、何をしても良い」のなら、生前に契約書を交わせば、ネクロフィリアも許されるべきだ。死体は人ではない。彼らは人に迷惑をかけていない。

「あらゆる価値体系が平等」「”西洋的価値観”は、”未開人”の価値観に対して優位性はない」のなら、人食いも人身御供も「伝統」として保持されるべきである。

または

「ユダヤ人が世界を支配している」のなら、それを徹底的に検証すべきである。

あるいは「ビルゲイツのワクチンによる大量虐殺」「フリメ―メイソン」「中国のスパイ」「文化左翼」「グローバルエリート」……

ユダヤ人ではなく、「金融ユダヤ人」が世界を支配している・牛耳っているのならば、「金融ユダヤ人」がどこから来て、何をしているのか、また一般的なユダヤ人と区別できる徴候を説明しなければならない。

「性差別を廃絶」したいのならば、イスラム諸国の支配体制に反対しなければならない。

あるいは

「嘘をついてはならない」のなら、友達の婚約者を素直に「醜い」と言うべきである。

(倫理学分野における議論で、「道徳的個別主義の妥当性」というものがある。気になる人は読んで下さい)

「人を殺してはならない」のなら、戦場に向かう兵士に「銃口を空に向け撃つべきである」と伝えるべきである。

「近親相姦が悪いのは、子どもに健康上の被害を及ぼす可能性があるから」ならば、遺伝病をもつ人間の生殖、同性間における近親相姦、懐胎可能性のない番い、これらのケースを議論の俎上に上げるべきだ。

「同性愛者は地獄に落ちる」のならば、同性愛者の性的指向を変えようとしない自分をアンチモラル・アンチクライスト・サタニストと呼ぶべきである。

考えなければどうなるのか

「モラル・法律・理論は、原理主義的に適用されなければならない」と言いたいのではない。

私が伝えたいのは、意識的にであれ無意識的であれ、嘘つきが大嫌いだということだ。

「諦めなければ、夢はかならず叶う」なる檄が不愉快極まりないのは、このメッセージが文意の埒外において、「言葉を文字通り受け止めてはならない」コミュニケーション様式を強要してくるからである。

(「やる気がないなら帰れ」も同質)

この檄は、「疑問を口にしてはならない」至上の権威も同時に飛ばしてくる。疑うこと自体が、不敬と看做されるような権威である。

もし仮に「すべての人は美しい」のなら、「美しい」とは「人の形をしている」と言っているに過ぎなくなる。「醜い人などいない」とのたまう連中が、人の形がなぜ美しいか説明してくれたシーンは見たことがない。
彼らは無言で微笑むだけだ。

ヒステリー反応を見つける

言説及び発信者にひそむ権威と権威性は、指摘し続けなければならない。換言すれば、何について語ることを禁じているか、禁じようとしているか見つけなければならない。

己の言説と挙動の権威に対する無自覚が極まったとき、人(己)は本当の孤独に陥るからだ。孤独感を当人が感じているかどうかは関係がない。

「本当の孤独」をもっと一般的な表現に変換するなら、「壊れたラジオ」だろう。

(私は「陸の孤島」あるいは「無人島」という表現を好む)

フェミニストが反論者を「父権主義者」「名誉男性」と中傷して切り捨てるとき、そこにコミュニケーションはない。あるのは「黙れ」と「考えるな」だけだ。

ある種の人々は、「左翼」「反日」の言説を読んだり聞いたりする価値はないと主張するが、これは悲劇的である。

権威に無自覚な連中にとって、他者はあくまでも「サービス業の従事者」であり、「無知な迷える子羊」であり、生きた人間ではない。

もちろん、大多数の人間は従順に振る舞ってくれず、同意をしてくれない。つまり、世界は地獄であり、人生は地獄である。これが悲劇でなくてなんなのだろう。

桜田真助
  • 桜田真助
  • 92年大阪生まれ。なにもかも分かったような気に最近なっていて、これはダメだなと焦って疑問を探している。プロフィール画像は友人(@leilamarinacb)から頂きました。

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