ワンパンマン・ガロウ編はどこが失敗しているか

漫画「ワンパンマン」において、悪役であるガロウは、主人公サイタマと対極的な精神状態にいる。ガロウは「ヒーロー狩り」そして「怪人」を自称しており、日夜「怪人」から民衆を守ってくれる「ヒーロー」を襲撃し続けている。

ガロウの反ヒーローの抗議(?)活動は、サイタマとの決戦時において「お前、ほんとうはヒーローになりたかったんだな」と喝破されるが、思うに、ONEの試みはワンパンマンのガロウ編において混乱している。

(「となりのヤングジャンプ」で、ONEがどう修正してくるのか、楽しみにしている)

そもそもパロディ

「主人公が強すぎると、ジャンプ漫画のような勧善懲悪ものはどうなるのか?」というシチュエーションコメディから始まったのがワンパンマンだ。

(私は、小学校高学年ころにFLASH全盛期を迎えていた世代だが、アンパンマンあるいはドラえもんを元にパロディを作った作品をまとめる「アンドラ系パロディ」なるカテゴリ・概念があった。ONEもそれらをきっと見ている)

たまに、主人公であるサイタマがなぜ強いのか、エヴァンゲリオンの謎本のごとく考察しているものを見かけるが、もし仮に「この理由でサイタマは強くなりました」(例えば、魔界の王の子孫でした)と原因が提示されてしまうと、ワンパンの独自性(より正確に言うのなら、特殊性)が失われてしまう。

作中でジーナス博士によって語られる「彼はリミッターを努力によって外した」云々の説明は、「いやでも大した努力してへんやんけ」という読者のツッコミ待ちのボケなのに、ボケを真面目に解釈しても仕方ない。野暮である。

ガロウ編の混乱

ガロウの幼年期を描写する挿話「ヒーローごっこ」にて、彼が幼年時代に「ヒーローごっこで悪役にされた」経験。悪役を応援してたところ、親から「悪役は負けると決まってるんだ」と伝えられたある種のトラウマ。

ガロウのヒーロー刈りの動機「圧倒的悪となり、全世界の人間を恐怖に陥れ、世界を団結させる」最終目標を、上述の挿入話から導くのは至難の業だ。なぜ至難なのか?ガロウが好青年で、誘拐された子供を命を賭して守る極めてまともな人物だからである。

ガロウは、ONE版村田雄介版双方にて、怪人協会に参加するための通過儀礼・「人間を捨てた」証明をするための殺人を拒否している。

(正直、ストーリーラインがかなりチープだ。ギャグ漫画家が一番やらないタイプの展開)

「絶対悪となり、世界を団結させる」動機にしろ、その結論に至るまでの経緯がまるで不明で、描写がないのが絶対にダメということはないが、ガロウの造形

「幼年期に始まる、ヒーロー物の悪役への感情移入」

「悪役が、悪役として『固定』されている『理不尽』への怒り」

そして

「悪役は負けると『決まっている』定めを、覆そうとした」

ここまでは分かるのだが、ここから「絶対悪・平等悪の完成により、世界は俺への恐怖で一つとなる」の狂気的な結論が、繋がらない。

かなり意地が悪いが、ONEは『理不尽』あるいは『悪』という概念・単語を、素朴に扱いすぎてしまったのだろうと思う。ガロウのサイタマに対する「絶対悪」スピーチは、上述のエピソード間に出てきた単語からなる連想ゲームのようだ。

そして、サイタマの件のスピーチに対するリアクション「俺はヒーローを趣味でやっている」からの「お前は妥協から怪人を目指したが、俺の趣味は本気だ。だからお前は負ける」も、意味が分からない。

読者は、それなりにガロウの動機を察せているのに(幼年時代の感情移入など)、サイタマの説教は、ガロウの連想ゲームのようなスピーチに対し、同じく連想ゲームのような説教。そこまでは100歩譲って良いとして、ガロウが「俺はこれからどうしたら良いんだ」と、まるで核心を突かれたかのような反応を起こし、改心(?)する展開も、意味がわからない。

(そもそも、サイタマはその精神性の高さ故に強くなったわけではない。説教が空疎な原因の一端)

描写が不足しているわけではなく

この物語展開の”混乱”の原因は、ガロウの心理描写が不足しているわけではなく、サイタマが喋りすぎることでもなく、嘘くさいのが問題だ。

理屈ではなく、言葉遊びのような動機、言葉遊びのようなスピーチ、言葉遊びのような反論、言葉遊びのような改心。

ガロウの言葉は、「子どもの言い訳」なのに、まともに向き合った瞬間、ガロウはハッと目が覚める。

思うに、ONEの失敗は、サイタマを「大人」として呼び出してしまったところにある。強すぎるあまり、感情が平板化している欠陥人間が、急に人格が完成された、落ち着いた倫理的人物として振る舞い、その振る舞いを誰も咎めない。

(サイタマは物理的に強いので、誰も咎められない)

例えるなら、”15歳の不良が、13歳の不良に「俺も昔は若くて、バカなことをしたもんだぜ」といった説諭を、「お前は現在進行系で素行が悪いし、今もバカだぜ」周りの大人たちがツッコまない話”を、感動秘話として読まされる感じだ。

読んでて、愉快なものではないだろう。サイタマはガロウの未熟さを指摘したが、どちらかと言うとサイタマはガロウよりもガロウ的だろう。つまり、改心すべき人物は、ほんとうなら逆(=サイタマ)でなければならない。

ONEの志の高さ

「お前何様やねん」なことを言うが、ONEの志は高い。

まず「悪(悪玉)」がおり、それを「善(善玉)」が倒すというお決まりに意地でも参加しない。ガロウ編は失敗したかもしれないが、ありきたりな「成功」よりも、よっぽど面白いし、我々は志と試みのある「失敗作」に、芸術的必要経費として寛容になるべきである。

…「ONEがおそらく実現したかった理想のライン」を少し考えてみたのだが、自分が納得できるものを見つけるまで、20年はかかりそうだった。ONEの志が高すぎるからだ。

(多分ガロウ編は、「となりのヤングジャンプ」でセリフが大幅改変されて、スッキリしたものになるハズです)

桜田真助
  • 桜田真助
  • 92年大阪生まれ。なにもかも分かったような気に最近なっていて、これはダメだなと焦って疑問を探している。プロフィール画像は友人(@leilamarinacb)から頂きました。

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