ロシア・トゥデイの巧妙なプロパガンダ

ロシアトゥデイはプロパガンダ機関だろうか?

ここで話を進める前に、お節介かもしれないが皆さんに承知してほしいことが二つある。

  • ニュースにするにあたり、情報の取捨選択は避けられない。よって、どんな情報機関であろうと「プロパガンダ」性は完全に捨てられない
  • 良いプロパガンダは、コンテンツとしても優れている
  • プロパガンダは、嘘を混ぜなくとも成立する

日本の戦中の戦意高揚のための小説などは、とても読めたものではない。しかし、それは”悪い”プロパガンダだからであって、プロパガンダ全てがつまらないわけではない。

プロパガンダとコマーシャルと営業マンのセールストークは、本質的に類似しているが、プロパガンダと本質を同じくするものとして、人間の発話行為も挙げられる。

また、”プロパガンダ”であることは、情報に偽りがあるかどうかは関係がない。ほんとうのことを報道したとしても、それはプロパガンダになり得る。

ロシア・トゥデイを侮ってはいけない。

アフリカ系アメリカ人問題とBLM


ロシア・トゥデイのやり口を、今回は上部分に埋め込んだ一つの動画をテクスト・媒介にして紹介しよう。

ドキュメンタリーが始まると、レールが軋む音が聞こえ、列車が去り、森が人間の高さから映し出された後、空撮で森のショットが現れる。

さながら映画である。何より、金と手間がかかっている。情熱大陸みたいな、貧乏くさいドキュメンタリーではない。

まず、冒頭のシーン、白人男性が釣りをしているシーンから始まる。釣りについてのトークをひとしきり行った後、「N*ggerは釣りをしない」と、黒人に対する侮蔑語を発し男性が笑顔を見せる。 

ここで、我々は「この男は、人種差別主義者(レイシスト)なんだ」と情報を得る。

(クリス・ベーカーという、KKKのリーダーにインタビューに行っているのだから、ロシア・トゥデイは差別的な言動を期待して取材に行っているのは明らかだ)

このドキュメント中、Tariq Nasheedという映画プロデューサーにインタビューが行われる。Tariqは

「アメリカには、Systematic Racismが存在する」と主張し、いかにアメリカが黒人を不当に扱っているか語るシーンが出てくる。

Systematic Racism(組織的な人種差別)が何を指すのかドキュメンタリー中に説明はないが、それは「制度化されていないが、確かに組織的に行われている人種差別」を指している。ちなみに、Trayvon Martinを銃殺した後、裁判によって無罪が認められた George Zimmerman を、「彼は、無罪になることを知っていたから殺した」とTariqは主張している。

この後に、KKKのリーダーに対してインタビューが行われるのだが、黒人が薬物を路上で販売している、生活保護で暮らしている、黒人が性的暴行を白人女性に加えている…etc、白人至上主義者のお決まりの文句が述べられている。

色々個別の事例をKKKのリーダー・ベーカーは挙げるが、つまるところ「白人は差別されている」との主張である。

(アメリカの白人の55%が、「アメリカは白人を差別的に扱っていると思っている」と考えているとの調査結果がある) 

人種と背景・逆転した風景

このYouTubeのコメント欄を見ていると、KKKリーダーの佇まいと話し方、家のみすぼらしさをからかうものが散見される。

「典型的なホワイト・トラッシュだな」だとか「Tariqに比べて、家がみすぼらしいな」「黒人と離れて暮らしているのに、黒人の脅威について延々語っている」「こんなアホが、白人が黒人に対して優越していると信じている」だとか。

その受け取り方は間違っていない。

事実、このKKKリーダーは過去、自宅に訪れた黒人で移民のインタビュアーに対し、脅迫ともとれる発言とともに、「我々は、600万のユダヤ人を殺した」と言い放っている

日本だと類似例が見つからないが、このKKKリーダーのクリス・ベイカーは、野村貴仁のような、「知識人や専門家でもないが、特定の問題が発生したとき、センセーショナルな画をとるためインタビューに伺う人」に該当するだろう。

(アメリカのメディアは、トランプ大統領が選挙戦に勝利した時、少なくない媒体がKKKの幹部・最高指導者にどう思うか聞いて回っていた)

しかし、事実関係をよく観察すると、コメント欄でイイネ上位を貰っている意見・観点とは、逆の受け取り方も可能であることが分かる。

Tariqは、インタビュー中、豪勢な広い自宅でインタビューに答えている。ドキュメンタリーでは言及されないが、彼は映画を何本も撮っているプロデューサーであり、経済的に成功している。その彼は「黒人は白人によって、システマチックに差別を受けている」と主張している、

一方、「白人は差別されている」と主張するクリスは、見すぼらしい家でつつましく暮らしている。

インタビューに答えている者の画面の背景(文字通りの意味と、経歴としての両方とも)だけを見れば、KKKリーダーの声明通りの”現状”が映し出されているのだ。

解釈多様性

良い抽象画とは、何時間でも立ち止まってみていられるような、非記号的な、豊かな抽象性を備えた、”解釈”の多様性がある作品だと誰かが言っていた。

このドキュメンタリーは、そういった意味では非常に優れている。引き出せる情報が、見る人によって鮮やかに変化するからだ。

  • 「アメリカ白人」の愚かさ
  • 「アメリカ黒人」の愚かさ
  • 黒人差別があること
  • 白人差別があること
  • 人種間対立があること

この一つの短い映像から、これだけの相反するようなメッセージを引き出せる。しかも、あくまでも登場人物の声明で構成されており、「黒人側」「白人側」双方の主張に偏って特集せず、表面上は非常に公正である。

…アメリカのネガティブキャンペーンとして、これほど優れたものも中々ないだろう。

桜田真助
  • 桜田真助
  • 92年大阪生まれ。なにもかも分かったような気に最近なっていて、これはダメだなと焦って疑問を探している。プロフィール画像は友人(@leilamarinacb)から頂きました。

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