アイロニーであるかどうか確認してはいけない

イロニーとは、無限の上位にある《善》を基盤とし、あえて法を設定しようとする思考の戯れである

ドゥルーズ「マゾッホとサド」104ページ

GamerGate」の中心自分物である、アニータ・サーキジアン。「ゲーム業界・ゲーム内の表現における性差別」を主張したフェミニスト(の女性)である。彼女の批判者は数限りなくいるが、彼女の最大の批判者として有名なのが、YouTubeでを主な活動の場としているSargon of Akkad こと、カール・ベンジャミン。2019年に欧州議会議員選挙にイギリス独立党「UKIP」から立候補したのだが、あえなく破れた。

選挙期間中、彼はイギリスの主要メディアからことごとく批判をうけた。切り口は様々だったが、もっとも話題(?)になったのは「わたしはあなたをレイプしないだろう」と、イギリスの国会議員であるJess Phillipsに対してツイッターで呟いた件だろう。これだげが原因ではないらしいが、彼のツイッターアカウントは後にBANされた。

私は彼の活動を長年見ているが、サルゴンが”極右・ネオナチ・ミソジニスト”として見なされても、仕方ないかなと思っている。移民に反対しているし、EUの離脱に賛成的だし、延々とフェミニストと舌戦を繰り広げるし、「The Belll Curve」に同意しているし、「なぜ黒人はより多くの犯罪を犯すのか?」という動画を作ったりしている。

サルゴンは、「俺は黒人が嫌いだ」だとも「ユダヤ人が世界を支配している」とも「白人は優越人種だ」だとも言わないが、黒人の人権活動家の言動に冷ややかだったり、黒人に対する差別用語を発したり、はっきりとは言っていないが、「言論の自由の」の名の下、ホロコースト否認も認められるべきだと言ったりしている。そこだけ切り取れば、彼は白人至上主義、少なくとも「ホワイト・ナショナリスト」かも知れない。

(あるいは「白人至上主義の自覚がない白人至上主義者」)

しかし、私は彼を危険人物だとは思っておらず、狂気に染まっていない「まとも」な人物だと思っている。なぜなら、彼は「アイロニー」を解するからだ。

アイロニーと精神病

馬鹿げていて素朴な言明だろうが、仮に世界のあらゆるもの・ことを、善か悪か(ええもんとわるもん)に分けたなら、アイロニーは善に属するだろう。

サルゴンは「ダライ・ラマはナチだ」という動画を作っているが、彼は文字通りそのような主張をしているわけではない。皮肉(アイロニー)の解説は好きではないが、彼が言いたいのは「あなたがたは、あらゆる人間をナチと呼ぶが、ダライラマもナチと呼ぶのか?」「ヨーロッパの白人が同じことを言うと、人種差別主義者・白人至上主義と言われるが、チベットの精神的指導者が言うとそうはならないのか?ダブルスタンダードではないか?」あるいは…と、無数に解釈を作れる。

アイロニーとは、このようなパラフレーズの前提である。

「言葉を、文字通りに受け取らないでいい」というメタ(上位)メッセージ、あるいはメタ情報と言い換えても良い。

(フィクションは「言葉を文字通りに受け取らなくていい」メタ情報・(上位)概念がなければ、成立しない)

ダブルバインドの乗り越え方

このPDFの36項目に、印象的な精神治療のエピソードが挿入されている。「神に支配されている」と思い込んでいる女性のクライアントの精神治療を担当したことのある医者が、「その神が存在しないことを証明するために、わたしはここにいる。その神に『私(医者)と話し合ってきなさい」と言い放つのだ(かなり文脈を省略しているのは、ご容赦下さい)。

こちらのPDFでは部分的にしか言及されていないが、精神の悪循環を乗り越えるためには、「第三者」が必要だというのは、すごくよく分かる。例えば「神」と「私」、あるいは「両親」と「私」しか存在しない世界で、いったい誰が他者とコミュニケーションを図るのか?

ダブルバインドのメッセージが強力なのは、そのメッセージが素朴な世界観を破壊するからだ。これは食べてもよい/これは毒ではない、と区別を積み重ねながら人は成長する。

そして、あなたにとって頼りになる人から、毒なのか食べてもいいものなのか分からないものを毎日食卓に提供される人生は、馬鹿げている。

「正しい」ことを前提に、ものごとの価値判断に挑んではならない。あなたが「正しい」ことを前提に何か結論を出す態度は、陰謀論者であることの証左である。仮に、あなたが陰謀論という言葉の意味を知らなくとも、陰謀論者でなくとも、あなたは陰謀論者だ。

仏に逢うては仏を殺せ

あなたは、寺の小僧である。何の気なしに、あなたは疑問に思ったので師に尋ねた。

もし、仏に会ったとき、わたしはどうすればいいでしょう?

「殺せ」

あなたは、耳を疑うはずだ。そして「師が言っている仏は、あの仏なのか?」「殺せって、文字通りに殺せと言っているのか?」「そもそも、私の質問が傲岸不遜だったのか。冒涜的だったのか。私が将来的に解脱できることを前提に質問をした私への懲罰なのか?」「それにしても、なんでそんなことを言うんだろう?」

話を戻すが、なぜ私がサルゴンを危険視していないのか、彼を信頼しているのかというと、彼が「アイロニー」を多用するからである。

言葉を文字通り受け止める人間、あるいは文字通りの言葉を要求する人間、文字通りのメッセージしか発しない人間は、他の何よりも毒が強い。例外なく支配的で、二元論的世界観に染まっている。

一度、アイロニーを用いる人/用いない人で、人間を2種類に分けてみるといい。

(本人に「それはアイロニーですか?」と聞いてはならない。「これはアイロニー」ですとの返答があったとして、「なるほど、これはアイロニーで、あれはアイロニーじゃないんだな」と区別してしまうのは、アイロニーを認めないことに等しいからだ)。

参照:ドゥルーズと法

桜田真助
  • 桜田真助
  • 92年大阪生まれ。なにもかも分かったような気に最近なっていて、これはダメだなと焦って疑問を探している。プロフィール画像は友人(@leilamarinacb)から頂きました。

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