全称命題と一般論と決定論

「スコットランド人はアル中である」なる言説を、「全てのスコットランド人はアル中である」と捉えるのか、「スコットランド人は一般的にアル中である」または「スコットランド人男性はアルコール中毒である確率が高い」と捉えるのかにより、会話及びディベートの方向性は変わってくる。

ジョーダン・ピーターソンなどアンチの多い人物は、少しでも揚げ足を取られないように「In general:一般的に〜」なる前置きを頻繁に枕に置く。

論客は大変だなと思うが、ことあるごとに「あれは言葉の綾だ」「私が言いたかったのはそういうことではない」と訂正する論客よりは、言動に責任をもつ姿勢を表明する論客の方がよっぽど信用できるのも確かである。 

ミソジニーと一般論

「女性の仕事は、男性の仕事と比べて楽である」と言っている男に対し、「女性蔑視だ」「ミソジニーだ」と反応することに正当性はあるだろうか。

「女性の仕事は〜」と言った男性に対し、女性モデル業界の過酷さや、海女さんの仕事を提示することに不自然さはない。

だが、「女性の仕事は簡単である」なるステートメントを反論することも証明することも難しい。なぜなら、この世界にある全ての女性の仕事を検証することは困難を極めるからだ。

また、一般論として語ったつもりでも、それを個人的な攻撃・「私」に対する侮辱としてとらえる反応もおかしくはない。

遅刻してきた彼女の対し、「女はいつもデートに遅れる」と言ったとして、その発現はあきらかにその遅れてきた彼女へのメッセージが込められている。

ツイッターやブログ、YouTubeあるいはテレビなどの媒体がややこしいのは、どれほど一般論を語ろうとしてもどこかに「私」に対する侮辱を受け取ってしまう点だ。

言葉というのは本来フェイストゥフェイスで発せられるものであり、マスメディアやインターネットのような場で発せられるために最適化されていないツールである。そこに根本的な問題が横たわっている。

特殊否定命題と一般論と極論

論理学を学ぶ場においてはそうではないが、「全ての〜は〜である」と言い切らなければいけないタイミングは発生しない。

ヒップホップアーティストがどこがで言っていたが、人にメッセージを届けようと思ったら極論を言うしかないそうだ。「いい人もいれば悪い人もいる」ではなく、「女はみんな嘘つき」「男はみんな浮気者」だとか、そうすることで「私はそうではない」「皆がそうではない」と指摘したがる人を巻き込むことができる

週刊誌だとかワイドショーを見ればわかるが、バカあるいは何かをやらかした人を見つけて叩くことを喜びとする人は少なくないのだ。それに、「いい人もいれば悪い人もいる」と言ってしまってはメッセージの宛先を狭めてしまう。

「〈特定の集合X〉はYである」と言えば、そのXに属する人すべてを言葉の射程範囲内に収めることができる。

全称命題Xに対し、Xのうちいくつかはそうではないと言うとき、そのカウンターの言説を特殊否定命題というが、世の中にはあらゆる事象に対して特殊否定命題を言いたがるコミュニティがある。

極論を言うしかない、キングコング西野は「間違ったものが売れる」と言ったが、「読者がツッコめる」意地の悪い言い方をすれば「バカにできる」意見がより流通する現状がある。

全称命題の誘惑 

「いい人もいれば悪い人もいる」と認識し続けることは、集団に対してダブルバインド的反応を予測し続けることである。

対照的なのが、全称命題的に、決定論的に「全ての集団Xは悪である」と認識すること。

決定論的な善悪属性の付与にしても、例えば「全ての男性は暴力性を備えて生まれる」といった真性の決定論的属性付与と、「全ての男性は男性優位社会の恩恵を受ける」といったヒエラルキー・上位構造の概念から説明するパターンの二つがある。

「いい人もいれば悪い人もいる」なるステートメントの問題は、ドラスティックな変革の牽引力になりにくいことだ。個別の腐敗した政治家に対応すればいい、個別のセクハラ親父を罰すれば良い…。

(穏健派が保守派のレッテルを張られがちな事情は、このあたりに起因するだろう)

他人のダブルバインド状態は「私」にとって苦痛でも、相反する感情を対象に抱くことは人間にとって自然なことである。むしろ、一方的な憎しみ/愛を抱くことの方が難しい。

決定論的な、全称命題的な言説が流通しやすいのは、その認識が心に平安をもたらすからである。そう考えないと辻褄が合わない。

是非フォローしてください

最新の情報をお伝えします

桜田真助
  • 桜田真助
  • Twitterアカウント:@yamakawa6500
    92年大阪生まれ。なにもかも分かったような気に最近なっていて、これはダメだなと焦って疑問を探している。プロフィール画像は友人(@leilamarinacb)から頂きました。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です